序章:サイズ表記の罠|同じ「26.5cm」でも履き心地が違う理由
革靴を選ぶ際、スニーカーと同じ感覚で「26.5cm」を選んで、革靴がブカブカだった経験はありませんか?
この現象は、消費者を惑わすトリックではなく、「靴が何を基準に設計されているか」という定義の根本的な違いに由来します。
スポーツスニーカーと革靴は、同じセンチメートル表記(cm)でも、その数値が意味する「足入れの空間(内部容積)」と「設計思想」が全く異なります。
スポーツスニーカーは、スポーツ用に運動を目的とした素足に近いフィット感を重視した設計になります。
一方革靴は、日常生活に適した歩行を重視した設計となっています。
同じ靴(シューズ)ではあるものの、それぞれの運動の根本的な役割の違いにより、大きく設計内容が違っています。
特にECで靴を購入する際に、サイズ選びに悩むことが多いかと思います。
スポーツスニーカーと革靴の違いを良く理解することで、サイズ選びの失敗を劇的に減らすことができます。
さらに悩ましいのは、日本の革靴と海外ブランドのサイズの違いもあります。
センチ表記とインチ表記の違いなど、より複雑に異なるサイズ定義がより混乱を招いています。
「革靴サイズは世界共通ではないことを理解すること。」
第1章:革靴の基準—JIS規格と「足の実寸」
革靴、特に日本の紳士靴の多くは、JIS規格(日本産業規格)に基づいた設計思想を持っています。
1-1. 日本のJIS規格における「サイズ(cm)」の定義
日本の革靴のサイズ表記(cm)は、原則として「足長(そくちょう)」、すなわち「足の実寸」を基準としています。
足の実寸に近いサイズを選ぶ必要があるため、革靴選びは自分の足長を知ることが最も重要です。
| 項目 | 定義と基準 | 革靴の設計 |
| サイズ(cm) | 足長(かかとから一番長い指先までの直線距離) | 実寸に極めて近い数値。靴自体のつま先の余裕(捨て寸)は、設計上木型(ラスト)に組み込まれています。 |
| ウィズ(幅) | 足囲(そくい)に応じたE, EE, 3Eなどの記号。 | 紐を締めても調整が難しい「幅」は、厳密な規格に基づき作られています。 |
【結論】
革靴は、足の実寸に合ったサイズを選ぶべきであり、着用者が「ゆとり分」をサイズに上乗せする必要はありません。
一方スポーツスニーカーサイズは、この「捨て寸」が含まれていないため実寸と同じサイズを選ぶとつま先が当たってしまい窮屈に感じるます。そのため通常1cmほど実寸より大きいサイズを選ぶことが多い。
1-2. 構造の違い:「クッション」か「革の馴染み」か
| 特徴 | スポーツスニーカー | 革靴(紳士靴) |
| 内部容積 | 大きい(意図的なゆとり) | タイト(革が伸びる前提) |
| クッション | 厚いパッド、高反発素材を使用 | コルクや薄いライニングのみ |
| サイズを選ぶ基準 | 「実寸」+「厚いクッション・ゆとり分」 | 「実寸」+「設計上の捨て寸」 |
これが、スニーカー27.0cmを履く人が、革靴では26.0cmを選ぶべきと言われる最大の理由です。
第2章:海外サイズ表記の理解と変換ロジック
海外ブランドの革靴を購入する際、日本のセンチメートル表記ではなく、UK(英国)、US(米国)、EU(ヨーロッパ)のサイズ表記が用いられます。これらはそれぞれ異なる計算方式に基づいています。
海外サイズ規格とセンチメートル(cm)の対応ロジック
海外の革靴サイズは、そのサイズ表記(号数)が「靴の木型(ラスト)の長さ」や「足長の実寸」のどの程度を指しているかが、重要なポイントです。
1. UKサイズとセンチメートル(cm)の換算
UKサイズは、インチを基本とし、1/3インチ(約8.46mm)刻みで増加します。
UKサイズから足長(cm)を推定する一般的な計算式は複雑ですが、主要なサイズにおける足長(cm)の目安は以下の通りです。
| UKサイズ(号数) | 推定される足長(cm)の目安 | 換算ロジック |
| 6.0 | 24.5 cm | UK 1サイズごとに約8.46mm増 |
| 6.5 | 25.0 cm | |
| 7.0 | 25.5 cm | |
| 7.5 | 26.0 cm | 日本の実寸26.0cmに相当 |
| 8.0 | 26.5 cm | |
| 8.5 | 27.0 cm |
【ポイント】
日本のJIS規格では5mm刻みですが、UKはそれよりやや粗い8.46mm刻みです。そのため、中間サイズ(例:25.8cm)は、どちらのUKサイズを選ぶか迷いやすく、試着レポートが重要になります。
2. USサイズとセンチメートル(cm)の換算
USサイズは、基本的にUKサイズより1.0大きいという関係で換算されます。
一般的に0.5大きい換算をしている場合もありますが、本格的なドレスシューズやトラディショナルなブランドは1.0差を採用している傾向があります。
USサイズもUKと同様に、足長(cm)を基準とした号数です。
| USサイズ(号数) | 対応するUKサイズ | 推定される足長(cm)の目安 |
| 7.0 | 6.0 | 24.5 cm |
| 7.5 | 6.5 | 25.0 cm |
| 8.0 | 7.0 | 25.5 cm |
| 8.5 | 7.5 | 26.0 cm |
| 9.0 | 8.0 | 26.5 cm |
| 9.5 | 8.5 | 27.0 cm |
【ポイント】
「US = UK + 1.0」が適用されるケース(主にドレスシューズ・伝統的換算)
英国や欧州の伝統的なドレスシューズブランドが採用している換算表では、USサイズとUKサイズの差が $1.0$ になることが非常に一般的です。
- 例: UK 7.5 → US 8.5
3. EUサイズとセンチメートル(cm)の換算
EUサイズは、パリポイント(Paris Point)という単位を使用し、1パリポイントは2/3 cm(約6.67mm)です。
EUサイズは足長ではなく、木型(ラスト)の長さを基準にしている。EUのサイズ付けは、その木型が適合する「標準的な足長」を指し示しています。
| EUサイズ(号数) | 推定される足長(cm)の目安 | 換算ロジック |
| 39 | 24.5 cm | EU 1サイズごとに約6.67mm増 |
| 40 | 25.0 cm | |
| 41 | 26.0 cm | 日本の実寸26.0cmに相当 |
| 42 | 26.5 cm | |
| 43 | 27.5 cm | |
| 44 | 28.0 cm |
【ポイント】
EUサイズは刻み幅がUK/USよりも細かいため、より細かいフィッティングが期待できる反面、ブランド間のサイズ基準のばらつきが大きくなりがちです。特にイタリアやスペインなどのブランドは、EUサイズ表記を用いることが多いです。
UK・US・EUサイズと理論上の足長(cm)対応表
この表は、各規格の計算ロジックに基づき、それぞれの号数が対応する足の長さ(cm)を示しています。
| 日本サイズ (JIS) 推奨 (5mm刻み) | UKサイズ | USサイズ | EUサイズ | 理論上のUKサイズ基準木型全長 (cm) | 理論上のEUサイズ基準足長 (cm) |
| 24.5 cm | 6.0 | 7.0 | 39 | 24.31 cm | 24.50 cm |
| 25.0 cm | 6.5 | 7.5 | 40 | 25.16 cm | 25.17 cm |
| 25.5 cm | 7.0 | 8.0 | 40.5 | 26.01 cm | 25.50 cm |
| 26.0 cm | 7.5 | 8.5 | 41 | 26.86 cm(捨て寸を含む木型全長) | 25.84 cm |
| 26.5 cm | 8.0 | 9.0 | 42 | 27.70 cm | 26.51 cm |
| 27.0 cm | 8.5 | 9.5 | 43 | 28.55 cm | 27.84 cm |
| 27.5 cm | 9.0 | 10.0 | 44 | 29.40 cm | 28.51 cm |
換算ロジックの解説
- UK/US サイズ(号数):
- UKサイズの刻み幅は 1/3 インチ(約 0.846 cm)です。
- 上記の「理論上のUKサイズ基準木型全長(cm)」は、木型が提供すべき「足の実寸+捨て寸」の合計値:履く人に最適なゆとりを含めた長さ。
- 例: UK 7.5 は、理論上 26.86 cm の足長に対応します。
この 8.6mm の差の最も実務的な解釈は、「その木型が 26.0cm の足に提供する、平均的な捨て寸(つま先のゆとり)」に相当するということです。 - UK 7.5 の革靴は、26.0cm の足を入れると、つま先に 8.6mm 程度のゆとり(捨て寸)ができるように設計されています。この捨て寸は、歩行時に指を曲げたり動かしたりするために必要不可欠なゆとりです。この「理論値と実務値の差」を理解し、「足の実寸 26.0cmの人は UK 7.5 を選ぶ」という実務的な対応表を信頼して選択すれば、適切な捨て寸が確保された靴を選ぶことができます。
- EUサイズ(パリポイント):
- EUサイズの刻み幅は 2/3 cm(約 0.667 cm)です。
- EUサイズが靴の木型自体の長さ(足長実寸ではない)を基準にしているため、換算が最も複雑です。
- EUメーカーは、EU 41という木型が、実寸 26.0cmの足に対して最もバランスの良いフィッティングと捨て寸を提供する、という経験則に基づいてサイズを割り当てています。つまり25.84cm という理論値は、実際に靴を選ぶ際には、EU 41 = JIS 26.0cm という実務的な換算表を使用するのが最も正確です。
換算の目安(実寸26.0cmの場合)
| 日本サイズ (JIS) | UKサイズ | USサイズ | EUサイズ |
| 26.0 cm | 7.5 | 8.5 | 41 |
【結論】
海外表記はメーカーごとにラストの傾向が大きく異なり、換算表はあくまで目安です。
必ずブランドのサイズ傾向を良く理解して判断することが重要です。
特に海外ブランドは、「ウィズ(幅)」も確認する必要があります。
UK/USは細身(D~Eウィズ)が主流のため、幅広の方は注意が必要です。
第3章:結論—ECでの成功に繋がる「革靴の選び方の視点」
ECで革靴のサイズ選びを成功させるには、スポーツスニーカーの快適性を求める視点から、革靴の「堅牢なフィット感」を求める視点へ切り替える必要があります。
また日本JISサイズと海外メーカーサイズ表記の根本的な違いについても考慮することが重要です。
1. 軸足を「足長の実寸」に置く
常に「あなたの足の実寸」を基準とし、そこから逸脱しないサイズを選びます。
スポーツスニーカーのサイズは革靴サイズと異なることを理解し、選ぶ革靴サイズはスポーツスニーカーより小さいサイズになる。
2. 「捨て寸」は気にしない
革靴では、つま先に必要なゆとり(捨て寸)がラストの形状に既に含まれています。
スポーツスニーカーのように意識してサイズアップする必要はありません。
3.UK・US・EUサイズは対応表で確認する
ご自身の「足の実寸 (cm)」を正確に把握し、その数値に合うUK/US/EUの「号数」をサイズ対応表で確認して選ぶ。それぞれメーカーごとにサイズ基準が異なるため、サイズ感を良く確かめ理解することが重要です。
4. 「ウィズ」と「ラスト」の情報を重視
サイズだけではなく、ウィズ(幅)にも注目してください。特に海外ブランドはD\Eウィズ(細め幅)も木型設定が多いため、試着レポートで「甲の高さ」や「幅」の情報を確認する必要があります。
甲高幅広の場合は、ワンサイズ大きいサイズを選ぶことも検討してください。
必要に応じて追加中敷きやタンパッドなどの調整する必要があることも考慮してくだい。











































































